いとしのラムゼー

東京大学理科一類の人。チマチマ書いてます

書評:車輪の下

 こんにちは。ラムゼーです。今回はヘルマンヘッセ作、車輪の下を紹介します。錆び付いた車輪、悲鳴を上げ♪ から始まることはあまりにも見え透いた嘘ですね。これはバンプの車輪の唄です。文学作品にとどまらず、なぜか車輪のメタファーというものは時折目にしますね。確かに何となく風情があります。移り行く時間と往来をどちらも感じますから。

 ここで意味の分からない前説を話しますが、なぜ生物に車輪がないか?という疑問を誰しも一度は持ったことがあると思います。え、ない?まあその理由はいろいろあるようですが、舗装されていない道は進むのが難しいということがあるようですね。小回りもあまり効かなそうですが。細胞レベルの小さい話になると車輪っぽいやつもあるようですが。ほしいですか?私はいりません

 1.作者紹介

2.あらすじ

3.おすすめポイント

4.感想

 

で進めていきます。もちろんネタバレ注意です

1.作者紹介

 作者はヘルマン・ヘッセ。ドイツ生まれのスイスの作家で、ノーベル文学賞も受賞していますね。代表作は「車輪の下」「デミアン」「少年の日の思い出」など。前2作は読んだことがない方も多いとは思いますが、少年の日の思い出はみんな読んだことがあるのでは?国語の教科書に出てきた標本握りつぶすやつです。中学生のころとかは「そうか、そうか、きみはそういうやつなんだな。」なんて一説が猛威を振るいましたね。変にネタとして定着していますが、めちゃくちゃつまらんです。 車輪の下は本人の自伝的な側面もあるようですよ。彼の生涯がまとまっているサイトがあるので、リンクを乗っけておきます。

その生涯の年譜 | Hermann Hesse

 

2.あらすじ

 その辺の田舎の村にいた少年ハンス・ギーベンラートは「疑いもなく天分のある」天才で、勉強詰めの毎日を送っていました。また、彼には母がいませんでした。そうして神学校を受けます。その時代は神学校はとても優秀な学生が行くところでした。遠くの町まで受けに行き、様々不安があるなか、見事全受験者中2位の好成績で合格し、親元を離れて神学校で生活することに。いままでそんな学生を輩出していない村だったので、関係各位は鼻高々ですね。

 そうして神学校に入ると、様々な友人に出会います。一番は同室のハイルナー。なかなかの問題児のようで色々無礼を働いた結果、彼とは話すな!令がでてしまいました。

クリスマス休暇を挟むと、ある日一人の同級生が不慮の事故で亡くなってしまいました

。それがハンスの転換点となったようで、再びハイルナーと仲良くなり始めます。勉学に身が入らなくなってしまったハンスは、だんだん具合を悪くして、故郷が恋しくなったり授業にも集中できなくなってしまったりします。ハイルナーから国の恋人の話などをされたりしていました。

 さて、少し経つとハイルナーはいきなりいなくなってしまいます。遠くの町まで勝手にでかけてしまい、それが原因で退学となってしまいます。ハンスは少し握手をして別れただけになりました。そのせいか、ハンスはかなりの神経衰弱になってしまい、故郷に帰らされることになれます。幼いころからいろいろな自然や遊びをとりあげて勉強させてきたつけが回ってきたんですね。

 故郷に帰ってもその傷がいえることはなく孤独と苦しみの中、自殺を決意することになります。踏ん切りがつかないまま、ハンスは幼いころなくした青春を再び歩むことになります。やがて秋になると、果汁絞りに出かけます。ハンスは久しぶりにすっかり陽気になります。その中でエンマという快活な女の子に出会います。めちゃくちゃに惚れます。その夜父に機械工にならないか?なんて勧められたことはそっちのけで、エンマに会いに行きます。エンマが彼に気づいて、出てくると「わたしとキスして」と大胆にお誘いがあり、キスを交わします。急いでおうちに帰ると、眠りたくても眠れません。翌日は機械工のとこの見学に行きますが、そんなことそっちのけで夜はまたエンマのとこへ会いに行きます。その晩もキスを交わし、ずいぶんくっついていましたが、ハンスは疲れ果てて帰ります。と、翌日にはエンマは故郷に帰ってしまいます。気の毒です。そんなこんなで、ハンスは機械工になります。

 ずっと勉強していたハンスにとっては重労働ですが、楽しみもあったようです。少し務めて、ハンスは職人たちとお酒を飲みに行くことになります。数店のみ歩くと、酔いつぶれてしまい、帰路につきます。途中倒れてしまいながらも、坂をくだっていきます。父が帰りの遅いハンスに業を煮やしていたころ、ハンスは冷たくなって川の中を流れていきました。

 

3.おすすめポイント

 あらすじは以上で紹介しましたが、どうでしょうか。自伝的な小説であることもあり、展開として面白い!とはあまりなりませんが、とても面白かったです。おすすめポイントは、自然や感情の描写です。自然豊かな場所で育ったハンスは、様々な自然とともに描写されることが多く、情景と心情を合わせた描写はありありと想像できます。さらに、途中出てきた恋焦がれる描写は迫真です。

 

「ハンスは、娘のスカートがいやでも自分に軽く触るような、彼女の手が自分の手に触れるような位置を占めようと努めながら」

 

 「娘は彼の頭を両手で捕まえ、自分の顔を彼の顔に押し付け、彼の唇を離さなかった。彼は、彼女の口が燃えるのを、また彼の口を押し付けながら彼の命を飲み干そうとでもするように、むさぼり吸うのを感じた。」

 

ここまでかかれると、かなり生々しく浮かんできますね。前者の描写は特に共感できる方も多いんではないでしょうか笑。

 

4.感想

 この作品はまあまあ古い作品ですが、勉強によってさまざまなことを抑圧された経験が私にもあるので、かなり共感できるものでした。車輪の下になってしまったハンス通して教育とはどんなものであるべきかという話題も考えさせられますね。青少年ハンスの心情を追うとそのころ特有の気持ちの動きも分かります。青少年を制御し制限して詰め込むのは本当の教育ではないと思いますが、どう思いますか?

 本文から少し抜粋して締めとします。みなさんも気になったらぜひ手に取ってみてください。

 

「国家から教師にゆだねられた職務は、若い少年の中の粗野な力と自然の欲望とを制御し除去し、そのかわりに、国家によって認められた静かな中庸を得た理想を植え付けてやることである」